上田常一『朝鮮の生物教材精義(植物篇)』京城 日韓書房 1930.5: 77,79-81頁
 [別題: Tsuneichi Kamita, A Commentary on the Biological Materials for 
 Instruction in Korea, Vol. 1, Botany]


77頁:


10. ばら(薔薇)科

代表 そめいよしのざくら(一名 よしのざくら)
   Prunus yedoensis, Matsum.

(略)


79-81頁:


そめいよしの(染井吉野)の来歴


[図省略]やまざくら そめいよしの ひがんざくら
(三者を比較せよ)


一説に伊豆大島の原産の美花を江戸時代に東京の巣鴨にある染井の里の植木屋が培養して江戸の各方面に広めたるものなりとも言はれ、小泉源一郎(ママ)氏によれば伊豆の大島にはよしのざくらの自生無くして同島に野生するものはおほやまざくら(一名たきざくら)又はおほしまざくらなりと言ふ。而して氏はよしのざくらの性質がやまざくらとひがんざく/らの中間にある故にこの二種に関係あるなりと。

京城附近のさくらを検するに殆んど大部このそめいよしのなり。内地にありても、東京の春を飾る桜花は殆んど全部染井吉野にして上野、九段、飛鳥山、墨堤その外市中のさくらは皆この種なり。

さくらの種類の検索

1. 花梗に毛無し・・・・・・・・・・・・・・2を見よ
   花梗萼に有毛・・・・・・・・・・・・・・3を見よ

2. 花一重にして小・・・・・・・・・・・・・やまざくら
   花八重にして大・・・・・・・・・・・・・やへざくら

3. 萼筒と萼片が概ね同長・・・・・・・そめいよしの
   萼筒が萼片より2-3倍長し・・・(4)を見よ

4. 萼筒が萼片より3倍位長し・・・・ちやうじざくら
   萼筒が萼片より2倍位長し・・・・(5)を見よ

5. 雌蕊の花柱無毛・・・・・・・・・・・・まめざくら
   雌蕊の花柱有毛・・・・・・・・・・・・(6)を見よ

6. 枝が真直に立つ・・・・・・・・・・・・ひがんざくら
   枝が下垂す・・・・・・・・・・・・・・・・しだれざくら


朝鮮産桜類

1. そめいよしの(よしのざくら)

済州島に自生ありと他にあるは移植せられたるものなり。K.花梗花柱に毛を有す。

2. やまざくら

3. ほそばざくら(細葉桜)

済州島の特産なり、花序の苞は大形長さ1cm許りに達するものあり萼筒は円筒状、花柱に無毛、葉は細長し倒披針形両端尖る。/

4. たんなやまざくら(耽羅山桜)

済州島の特産なり、花序の苞は大形長さ1cm許りに達するものありて萼筒は円筒状をなし、花柱無毛なること上例と同じ、葉は卵形、広卵形、倒卵形等ありて一、二年は細かく灰色又は帯灰色にして花は径2.5cm許りあり、花梗に微毛を有し総花梗は花時長く生長す、花時葉を伴ふ。

5. てうせんこざくら

喬木分岐し、花は小形帯紅白色美しく多くは葉に先ちて開けども又葉と共に生ずることもあり、花梗に毛あり。中部の産朝鮮特産なり。

6. てうせんやまざくら

喬木分岐多し、花は葉と共に(同時)生じ葉柄には毛あること、なきことあり、花軸には通例なし、花は鮮紅色美し4-5月頃色あり、中南部の産。

7. たけしまざくら(竹島桜)

鬱陵島に自生し該島の特産なり大島桜に似て花梗殆んどなく又□□□桜状に高く伸び大島桜の如く基部より分岐せず花は白く香気ありて芽には粘質を有す。

(李 Prunus Nakai, Levl.)(さくら属)

灌木簇生し分岐多し、花は菓腋に生じ白色又は淡紅色花梗長し葉は卵形果実は長く4分許食すべし、朝鮮の特産にして中部北部にあり李氏の李はこれなり。

※原文の旧字体は新字体に改めました。仮名遣いは原文のままです。