三好學『最新植物学講義』下巻 増訂改版 東京 冨山房 1920年1月
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そめゐよしのハ徳川幕府ノ頃染井ノ花戸ニ於テ作リ出セルモノニシテ、俗ニ呼/ンデよしのざくらト云ヘドモ、大和ノ吉野山ノ桜ハやまざくらナレバ之ト同一ナラザルハ言ヲ俟タズ。そめゐよしのハ伊豆ノ大島ノ原産ナルベシトノ説アレドモ而カモ予ノ検セル同地ノ桜ハ皆山桜ニシテ、そめゐよしのノ原種ト認ムベキモノアルヲ見ズ[。]近時朝鮮附近ノ済州島ニそめゐよしのノ自生スルヲ知レリ。然レドモ培養セルそめゐよしのガ果シテ同島ヨリ来レルヤ否ヤ未詳ナラズ。

そめゐよしのノ栽培年代ハ古カラザレドモ今日ニテハ東京ノ内外ニ殆ド此桜ヲ見ザルハナク、上野・向島・芝・山王ヲ始メ処々ノ庭園路傍ニ至ルマデ之ヲ植ヱ正サニ帝都ノ桜ヲ代表スルニ至レリ。此/桜ハやまざくらノ如ク花葉一度ニ生ゼズシテ、花ノミ先ヅ開キ、蕾ハ紅色ナルモ、開キ初ムレバ淡紅トナリ、満開ニ及デ殆ド白色ニ変ジ、遠ク望メバ白雲ノ樹頭ヲ覆フガ如ク、美観モ亦極マレリ。