宮川類吉「京城の桜」『京城日報』昭和8年4月20日 1933.4.20


京城の桜

桜井小学校  宮川類吉


染井吉野

(一名吉野桜)京城に於ける桜の名所としての大部分はこの種で多く内地から移植したものである。昌慶苑の夜桜(樹齢凡そ二十年)[、]倭城臺の桜谷、奨忠壇、孝昌園、総督府裏庭等全部この種である。

(特徴)花の咲く頃には葉がまだよく伸びない、嫩葉は裏面に毛がある、後には葉柄以外無毛[、]蕾の大部分ふくらんだ頃遠方から見ると余程紅色を帯び、花が開いてから花弁が幾分薄紅色を帯ぶ、蔓筒や花梗に細毛密生す[。]

(原産地[)]従来は伊豆大島で東京巣鴨の染井の里の植木屋が広めたと云はれてゐるが朝鮮済州島で海抜六百メートルの所で仏人タケー氏が採集し原産地なりと発表して学界の問題となり、昨年原始林より当地の森林主事より城大石戸谷勉先生の許に送り来り、更に小泉博士の採集により原始林ある故原産地ならんと昨年(昭和七年五月)大阪毎日新聞に発表せり[。]

てうせん山桜

(特徴)山桜と等しく嫩葉は帯紅色で、花と葉が同時に開くが異る所は葉の表面に毛があつて花軸は普通長い、京城近郊の牛耳洞にあるのが此種である[。]種々の説があるが朝鮮在来のものと見てよかろう[。]

山桜

(特徴)嫩葉は帯紅又は帯黄色と花と葉と同時に開き、花は白色又は淡紅色を帯びたもので、花弁は広卵形回頭で、花柱に毛がない、昌慶苑に二三本あるがあまり目立たない[。]

毛山桜

(特徴)山桜の変種でよく似てゐるが、花軸が長く、花弁、花梗、葉柄、葉の裏面に毛がある。 牛耳洞の山桜の中にも見受け京城で時々見る。

兎に角山桜には変種が非常に多いので素人は大別して白山桜と紅山桜とに分ける、其の外萌黄の若芽を出す黄芽[、]茶色の茶目、緑色の青芽あり、八重桜(里桜)[、]うこん等あるがこれ等は当地には極めて少ない。


※原文の旧字体は新字体に改めました。仮名遣いは原文のままです。