三好學『最新植物学講義』下巻 東京 冨山房 1905年5月:
 716-718頁:

さくら桜 ハ我邦固有ノ花木ニシテ、花期ノ正サニ陽春ニアルト、花形、花色ノ優美ナルトハ以テ本邦百花ノ王タルベク、加フルニ其古来和歌ニ詠ゼラレ文学ニ表ハレ、盛ニ其美性ヲ称揚セラレタルニヨリ、国粋上ヨリ随一ノ名花ヲ以テ目セラルルニ至レルハ固ヨリ其理ナキニアラズ、本邦ノさくらニハ第二百二十三図ニ示ス如クやまざくらそめゐよしのひがんざくらノ外二尚ホしだれざくらアリ、又八重桜ノ種類多シ、是等ノ桜樹中、そめゐよしのハ松村任三氏ノプルヌス、エドエンシス/(第二百二十三図)[略]/(Prunus yedoensis)ト命名セルモノニシテ、現今主トシテ東京ニ見ル所ノ桜ナリ、隅田川ノ土手ニ多ク之ヲ植エタリ、該桜樹ノ原産地ハ伊豆ノ大島ニシテ、幕府ノ頃之ヲ江戸染井ノ花戸二移植セシメ、夫レヨリ市内各処ニ栽培スルニ至レルガ如シ、そめゐよしのノ名ハ是レヨリ来レルモノニシテ、通常単ニ「吉野桜」ト称セラルレドモ、吉野山ノ桜ハやまざくらニシテ之トハ全ク別種ナレバ混同スベ(ママ)ラズ、該桜樹ノ現ニ大島ニアルモノハ、未ダ培養ノ状態ニアラザルヲ以テ、花部ノ発生甚ダ宜シカラザルモ、其東京ニ於ケルモノハ花輪肥大ニシテ叢着シ、やまざくらノ如ク花、葉一時ニ生ゼズシテ、花ノミ先ヅ発シ、万朶ノ枝條一トシテ花ナラザルハナク、遠ク望メバ白雲ノ樹頭ヲ覆フガ如ク美看モ亦極レリ、そめゐよしのニハ未ダ園芸的変種ヲ生ズルニ至ラザルハ、是レ恐ラクハ培養ノ年月未ダ多カラザルト、栽培ノ尚ホ盛ナラザルニ由ルナランカ